転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


543 お土産は何がいいかなぁ?



 僕がイーノックカウから帰ってきてから何日かして、いよいよ家族みんなで出かける前の日になったんだ。

 でね、その日の夜ご飯の時に、レーア姉ちゃんがお父さんに、こんなこと聞いたんだよ。

「ねぇ、お父さん。明日からイーノックカウに行くのに、何か持って行かないといけないもの、ある?」

「何か持って行くものって、イーノックカウに行くの、初めてじゃないだろ? 何でそんな事を聞くんだ?」

 お父さんの言う通り、レーア姉ちゃんは何度かイーノックカウに行った事あるんだよね。

 それにさ、家族みんなでっていうのならこないだ行ったばっかりでしょ?

 だからお父さんは、レーア姉ちゃんが何でそんな風に思ったの? って聞いたんだよ。

 そしたらレーア姉ちゃんは、今回のは今までとは違うからだよって。

「だって、今までは宿屋さんに泊まってたでしょ? でも今度はルディーンが買ったっていう家に泊まる事になるもの。だから何か準備する必要があるのかなって思ったのよ」

 僕たちだけじゃなく、グランリルの人たちはイーノックカウに行く時、いつもみんな『若葉の風亭』って言う宿屋さんに泊まるんだ。

 レーア姉ちゃんはね、いつもとおんなじようにその宿屋さんに泊まるんだったら着替え以外何にも持って行かなくっても大丈夫だけど今回は違うでしょ?

 だからなんか持ってかないとダメなものがあるんじゃないかなぁって思ったんだってさ。

「なるほど、言われてみればその通りだな」

 でもね、お父さんはそんな事全然考えてなかったみたい。

 だからちょっと考えた後、僕に聞いてきたんだよね。

「なぁ、ルディーン。お前が買った家って、家族全員が寝る事の出来る場所はあるのか? もし無いなら俺とルディーン以外は若葉の風亭に泊まらせてもいいんだが」

「大丈夫だよ。僕が買ったお家、お客さんが使うお部屋があるもん」

 お父さんはね、僕がどんなお家を買ったのか解んないから、家族みんなで泊まれるのか心配になったみたいなんだよ。

 でもイーノックカウの僕んち、とっても広いでしょ?

 だから僕、大丈夫だよって教えてあげたんだ。

「そうか。それなら家族全員で泊まりに行っても大丈夫そうだな」

 それを聞いたお父さんはそれなら大丈夫だねって言ったんだけど、

「ちょっと待って、ハンス。もう一つ聞いておかないとダメな事があるわ」

 お母さんが他にも聞かないとダメな事があるでしょって。

「聞いておかないといけない事?」

「まず、一番大事なのは馬車よ。ルディーンが買った家の近くに馬車を置く場所があるならいいけど、もし無かったらどこか置ける場所を探さないといけないじゃないの」

「ああ、そうか!」

 僕たち、グランリルの村からは馬車に乗ってくでしょ?

 この馬車、イーノックカウに行く時はいつも宿屋さんにある馬車置き場に置いてるんだけど、今回はその宿屋さんに泊まらないもん。

 だからお母さんは、馬車を泊めるとこの心配をしてるんだ。

「それでどうなんだ、ルディーン。家の近くに馬車置き場はあるのか?」

「あるよ。ロルフさんがね。錬金術ギルドに行く時に載ってくる馬車、いっつもそこに置いてるもん」

 イーノックカウん僕んちって、前におっきな空き地があるでしょ?

 ロルフさんちの馬車もそこに置いてるし、あそこになら僕んちも馬車を置いてもストールさんは怒らないと思うんだよね。

 だから僕、お父さんに馬車を置くとこはあるよって教えてあげたんだ。

「そうか、なら馬車に関しては大丈夫そうだな」

「いや、ちょっと待ってハンス。ねぇルディーン、その場所にはいつもロルフさんの馬車を置くんでしょ? なら、うちの馬車は置けなんじゃないかしら?」

 そっか、ロルフさんちの馬車が泊まってるって言ったら、他の馬車は置けないって思うよね。

 でもさ、僕んちの庭、すっごくおっきいでしょ?

 だからそんな心配しなくっても大丈夫なんだよね。

「大丈夫だよ。すっごく広いとこだもん」

「そうなの? それなら大丈夫そうね」

 だからその事を教えてあげたら、お母さんは安心してくれたみたい。

 でもね、他にも確かめたい事があるのよって言って、こんな事を聞いてきたんだ。

「後は食べるところね。買った家の近くに食べ物屋はあるの?」

「う〜ん、どうだろう? よく解んない」

 僕、イーノックカウのお家を買ってからも工事が終わるまではずっと宿屋さんにいたでしょ。

 ご飯はずっとそこで食べてたし、たまにお家に行った時もノートンさんやカテリナさんがご飯を作ってくれたからから、お家の近くにどんなお店があるのかなんて解んないんだよね。

「あっ、でも屋台街が近くにあるから、そこに行けば食べる物がいっぱい売ってたよ」

 でもお家の近くにどんなご飯屋さんがあるのかは解んないけど、いろんなお料理が売ってる屋台ならちょっと歩いたとこにあるでしょ?

 それを教えてあげたら、お母さんはそれなら大丈夫ねって。 

「ああ、そう言えば買ったのは錬金術ギルドの近くの家だって言っていたものね。あそこは商業地区だから、食べる物には困らないか」

 お母さんは昔イーノックカウに住んでたし、錬金術ギルドにも行った事があるでしょ?

 だから僕んちが錬金術ギルドの近くにある事を思い出して、あの辺りならいろんなお店があるはずだよって僕に教えてくれたんだ。

「寝るところと食べるところ、それに馬車を置く所も確保できるのなら、後は特に心配する事は無さそうね」

 僕からいろんな事を教えてもらって、お母さんはもう心配ないねって言ったんだ。

 でもね、

「なぁ、シーラ。錬金術ギルドと言えば、ルディーンが買った家はそこのギルドマスターから相場より安く売ってもらったんだろ? それに普段はロルフって爺さんが管理をしてくれているって話だから、何か手土産を用意した方がいんじゃないか?」

「ああ、そう言えばそうね」

 そんなお母さんに、お父さんがロルフさんやバーリマンさんにお土産を持ってった方がいいんじゃないかなぁって言ったんだよ。

 そしたらお母さんはそう言えばそうねって言ったんだけど、その後すぐに困ったお顔になっちゃったんだ。

「でも、手土産って言っても何を持って行ったらいいのかしら? ロルフさんってお金持ちなんでしょ? それに錬金術ギルドのギルドマスターだって」

「確かになぁ。うちの村には特にこれと言った特産物もないし。魔石とか魔物の素材とかを渡されても、冒険者ギルドじゃないんだから困るだけだろうしなぁ」

 グランリルの村はね、近くの森で獲れるから魔物の素材はいっぱいあるけど、他の村と違って畑は自分たちで食べる物くらいしか作ってないからめずらしい野菜や果物とかは採れないんだよね。

 でもさ、魔物の皮とかを持ってってもロルフさんたちは職人さんじゃないから困っちゃうでしょ?

 それに魔石だって一角ウサギのだったら魔道リキッドの材料に使うかもしれないけど、魔道具職人じゃないからおっきいのをあげてもそんなに喜ばないと思うだよね。

「ねぇ、ルディーン。どんなものを持って行ったら喜ばれると思う?」

「うーんとね、前にクラウンコッコのお肉を持ってったことあるでしょ? そしたらロルフさん、すっごく喜んでたよ」

 クラウンコッコ、イーノックカウの森にはいないでしょ?

 だからなのか、僕がジャンプの魔法で持ってけるくらいちょびっとだったのに、そのお肉を持ってってあげたらすっごく喜んでたんだよね。

「クラウンコッコか。確かにあれは狩ったとしても、肉はうちの村だけで消費してしまうからなぁ。でも、森の入口近くに出たのはもうあらかた狩ってしまったからなぁ」

「そもそも、私たちが出発するのは明日の朝なのよ? 今から獲りに行けるはずもないんだから、例え入り口近くに残っていたとしても手に入れるのは無理でしょ」

 クラウンコッコって、うちの村でもお祭りの時くらいしか狩らないんだよね。

 それにね、狩ったお肉はお祭りの時に村のみんなで全部食べちゃうから、イーノックカウに売りに行く事なんてないもん。

 だからもしクラウンコッコのお肉をお土産に持ってったら喜んでくれるだろうけど、もう夜だから今からじゃもう用意できないんだよね。

「そうだ、ブラックボアのお肉なんかどうかしら? クラウンコッコよりは手に入りやすいけど、あれもイーノックカウの森にはいないはずよ」

「いやいや、ロルフさんてのはかなりの金持ちなんだろ? ディックの組んでいるパーティーでも狩れるように魔物の肉をもらっても、流石に喜ばないだろう」

「そう言えばそうねぇ」

 ブラックボアはクラウンコッコと違っていっぱい狩るから、そのお肉だったら僕んちの冷蔵庫にも入ってるんだよね。

 でもさ、いっぱい狩るって事は村の中だけじゃ食べきれないから、イーノックカウにも売りに行ってるって事でしょ?

 って事はお金を出せば買えるって事だから、そんなのをわざわざ持ってったってお金持ちのロルフさんたちは喜んでくれないよってお父さんは言うんだ。

「それなら、とっておきのものを出すしかないわね」

「とっておき? ってまさか!」

「ええ、ブラウンボアの腿肉を使った生ハム。あれならいくらお金持ちでも手に入れる事なんてできないもの。絶対喜んでもらえるはずよ」

 ブラウンボアはね、うちの村でもお父さんたちの他に3組くらいしか狩れるパーティがいないんだよね。

 だからうちの村でも獲れることはめったに無いし、だからそのお肉もイーノックカウに売りに行くのなんて1年に1回あるかないかなんだ。

 でも、そんなお肉を売りに行く時だって腿のお肉、それも一番ふっとい後ろ足のお肉は生ハムにするとすっごくおいしいから絶対に売りに行かないんだって。

 お母さんはね、そのブラウンボアの生ハムをお土産に持ってったらどうかな? って。

「いやいや、ブラウンボアの生ハムなんて、うちにだって2〜3本しかないんだぞ」

「確かにそうだけど、うちはまた狩ってきて仕込めば手に入るじゃないの」

 お父さんはね、ブラウンボアの生ハムを食べながらお酒を飲むのが大好きなんだ。

 だからそれを持ってっちゃったら、食べる分が無くなるじゃないか! って反対したんだよ。

 でもお母さんは、また今度の冬に作ればいいじゃないのって。

「だが、都合よく生ハムを仕込む頃にブラウンボアが獲れるとは限らないじゃないか」

「あら、大丈夫よ。前は確かに運任せだったけど」

 お母さんはそう言うとね、僕の方を見てこう言ったんだ。

「今はルディーンが魔法で探してくれるだろうから、これからは毎年仕込めるようになると思うわよ」

 そう言えば僕、前にブラウンボアをやっつけた事があるもん。

 だからやろうと思えば多分、ブラウンボアを魔法で見つける事ができるはずだよね。

「うん。僕じゃブラウンボアをやっつけられないけど、見つけるだけだったらできるよ」

「ルディーンの魔法は、かなり遠くにいる魔物まで見つけられるみたいですもの。場所だけ教えてもらって私たちのパーティで狩れば大丈夫でしょ?」

「確かにそうだな」

 お父さんはね、そう言いながらすっごくしょんぼりしちゃったんだよ。

 でもお母さんはそんなお父さんのお返事を聞いて、それじゃあお土産はブラウンボアの生ハムで決まりねってにっこり笑ったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。

 本文中、ルディーン君がはぐらかして答えているように見えるところがありますが、それはわざとではなく素です。

 ただ聞かれている事を答えているだけなので、ルディーン君に全く他意はありません。作者にはありますがw

 さて、ハンスお父さんは反対しましたが、シーラ母さんに押し切られてロルフさんたちの手土産はブラウンボアの生ハムに決まりました。

 でもハンスお父さんが反対する気持ちも解るんですよね。

 だって生ハムって、食べられるようになるまで2年近く、おいしくなるまで待つとなると4年以上かかるのですから。

 ただそれは熟成するのを待つからなので、実を言うとルディーン君がいればそれほど時間はかからないんですよねぇ。

 流石に冬場に2〜3か月乾燥させるという作業は行う必要がありますが(ドライの魔法では干し肉になってしまうので無理です)その前の1次発酵も、一番時間のかかる最終的な熟成も魔法であっという間に終わってしまいますからね。


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